Research

 
school 自己組織化と自己組織型ネットワーク制御
 

アリやハチなどの社会性昆虫の群れにおける餌集め,巣作り,役割分担など,指示を出すリーダーが不在にもかかわらず,非常に能力の限られた個体の自律的な判断と行動によって,群れ全体として必要な機能,構造,振る舞いが達成される現象やそのメカニズムを「群知能」と呼びます.昆虫や生物にとどまらず,化学反応や人間社会など,様々な分野で同様の「複数の構成要素からなる系において,それぞれの構成要素が,局所的な情報にもとづく単純なルールに基づいて動作し,相互作用することによって,系全体としてより高度なパターンが創発される現象」が認められ,これを自己組織化(self-organization)と言います.

自己組織化は完全自律分散的なメカニズムであることから,ノード(通信デバイス,ホストやルータなど)の集合体である情報ネットワークとの親和性が高く,特に集中制御に伴う管理オーバヘッドを回避できることから,これまで様々な応用がされてきました.例えば,アリが巣と餌を結ぶ最短に近い道を通って餌集めを行う仕組みはACO(Ant Colony Optimization)と呼ばれる巡回セールスマン問題の発見的手法としてモデル化され,情報ネットワークにおける経路制御への応用例が多数認められます.

若宮研でも,蛍の発光同期の仕組みを応用したスケジューリング,アリの敵味方識別の仕組みを応用したクラスタリング,異種生物の共生の仕組みを応用した協調制御,アリやハチの役割分担の仕組みを応用したタスク割り当て,体表の模様形成の仕組みを応用したクラスタリングやレート制御,また,代謝反応の仕組みを応用した適応制御など,群知能に限らず,生命の様々な自己組織的な仕組みを応用した情報通信技術を研究しています.

これらの研究においては,見た目の振る舞いの単なる物まねではなく,動作原理を表す数理モデル(パルス結合振動子モデル,反応拡散モデル,反応閾値モデルなど)をベースにしており,そのことによって,応用技術の拡張性,適応性,頑健性の理論的検証を行うことができます.また,提案手法の有効性は,数値解析,シミュレーションによって評価するだけでなく,プロトタイプを用いた実証実験による実用性評価も行っています.

また,あわせて,自己組織化そのものをより良く理解し,様々な情報システム,通信システムの設計,構築,制御,運用に役立てるための理論的な研究も推進しています.自己組織化におけるパターンの創発は,構成要素間の相互作用から導き出されるいわば結果論に過ぎず,工学的に望ましいパターンになることは必ずしも保証されていません.また,パターン形成に失敗する,パターン形成に時間がかかるなど,収束性,収束速度の面で不十分なケースもあります.そこで,自己組織化のメリットを損なわないよう,構成要素の自律性を保ちつつ,外部から緩やかな制御,干渉を加えることによって望ましい自己組織化を達成する管理型自己組織化(Guided/Controlled/Managed self-organization)について研究しています.例えば,蛍の発光同期の周期を変更するためには他との相互作用の小さい蛍に制御を加えれば良いことを明らかにしました.また,大規模な情報通信システムは階層構造を有していることから,階層的な自己組織化のあり方(階層ごとの構成要素数や動作の時間オーダ,階層間の相互作用の強さなど)の理論的基盤の確立にも取り組んでいます.